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生体肝提供(ドナー)手術に関する指針

I. はじめに II. 歴史的経緯
III. 生体肝提供(ドナー)手術の危険性 IV. 生体肝ドナーの前提条件
V. 生体肝ドナーに説明すべき事項 VI. 生体肝提供(ドナー)手術の承諾
VII. 生体肝移植症例の登録 VIII. 要約

 

I. はじめに

 肝移植は今日、多種多様な末期肝疾患あるいは代謝性肝疾患の治療法として認知され、1998年4月には生体肝移植が一部の疾患に対し保険適応となった。1997 年10月には臓器移植法が施行され、脳死の臓器提供者(ドナー)からの善意の臓器提供に道が開かれたが、現実的には提供件数が限られており、わが国の肝移植は当面、生体肝移植が主流にならざるを得ないと考えられる。

 生体からの臓器提供手術は数多くの医療行為の中で唯一、ドナー本人にとっては医学的に適応がないにもかかわらず行われる手術であり、なかでも肝臓の提供手術はその侵襲が大きい。生体臓器移植の最重要課題はドナーの健康と安全への最大限の配慮であり、その手術適応はドナーの危険性と臓器受容者(レシピエント)が受けるであろう多大な恩恵、ならびにドナーの心理的な満足度を比較考量した上で決定される。

II. 歴史的経緯


 生体肝移植は世界的には1988年、そしてわが国では1989年に開始されたが、当初は胆道閉鎖症を中心とした患児に対し、その両親のいずれかの肝外側区域あるいは左葉の提供を受ける方式で開始された。

 小児に対する生体肝移植の経験から同手術の利点が以下の如く明確にされた。

1. 待期的手術が可能
2. 移植前にレシピエントの病状に即した手術計画が立てられる
3. 臓器保存時間の短縮が可能
4. ドナー・レシピエント間のクロスマッチが移植前に行える
5. 脳死肝移植待機中に悪化した患者に対する救命処置となりうる

その後、生体肝移植の適応は1992年には劇症肝不全に、そして1993年には成人間に拡大され、今や成人間生体肝移植は生体肝移植の過半数を占めるに至っている。

 わが国ではこれまでに2,000例以上の生体肝移植が施行されているが、ドナーの死亡は1例もなく、また重篤な合併症は稀である。この優れた肝提供(ドナー)手術成績はわが国の高度な肝切除の技術と手術前後の管理の習熟により支えられてきた。かかる生体肝提供(ドナー)手術の安全性とレシピエントの優れた短期ならびに長期予後の達成により、わが国では生体肝移植が末期肝疾患の治療法として受け入れられている。

 小児の生体肝移植では外側区域あるいは左葉が移植に用いられるが、成人間の生体肝移植では充分な大きさの提供肝を確保する必要がある。このため術前に提供肝ならびに残肝の容積を計測した上で、拡大左葉、尾状葉付き拡大左葉、右葉、拡大右葉、後区域などの提供術式が選択される。これらの提供手術は当初の小児に対する外側区域あるいは左葉の提供手術に比べて残肝容積が少なく、ドナーに対してより大きな侵襲を与える。したがって成人間生体肝提供(ドナー)手術ではドナーの危険性がやや増加すると考える必要がある。

 例えば肝右葉提供手術ではドナー肝全体の約60%が摘出される。近年の肝臓外科の進歩により、良性疾患に対する肝葉切除術後の入院死亡はゼロに近いが、最近欧米から生体肝ドナーの死亡報告が散見されはじめた。

 また生体肝ドナーの術後観察期間は最長で14年であるが、この数年間で急速に増加している成人間生体肝移植におけるドナーに関しては長期予後に関する情報は乏しく、その身体的あるいは心理的な損失あるいは有害事象は充分に把握されていない。

III. 生体肝提供(ドナー)手術の危険性

 現時点では海外における生体肝提供(ドナー)手術の危険性に関する情報が不足している。生体肝移植における肝提供(ドナー)手術の短期的な危険性は良性肝腫瘍に対する肝葉手術とほぼ同等と考えられる。一方、生体肝提供(ドナー)手術は健常人に対して行なわれるため、長期的に自己血以外の輸血による有害事象など、健康を害する可能性については充分なインフォームドコンセントが必要であることはいうまでもない。

 生体肝ドナーの死亡に関しては、European Liver Transplant Registryへの問い合わせでは、欧州における2000年末までの全生体肝移植登録例430人中、ドナー4人 (0.9%) の死亡が確認されている。また米国では生体肝ドナーの死亡は約1,000人中3人 (0.3%) で、また生体右葉肝ドナー2人が残肝の容量不足で肝移植を必要としたとの報告がある。

IV. 生体肝ドナーの前提条件

 日本肝移植研究会は生体肝ドナーの前提条件を以下の如く定め、その遵守を要望する。

1. 健常人であり、提供肝と残肝の容積計測を含む慎重な検査の後に、肝臓病専門医を含む移植チームから医学的に耐術すると判断される。
2. 生体肝提供(ドナー)手術のインフォームドコンセントを取得しうるだけの理解力と判断力を有すると判断される。
3. 生体肝提供(ドナー)手術とそれに付随する危険性を充分理解しており、危険度を理解した上での提供であることを手術チームの構成員とは別の施設内組織あるいは医師が確認している。
4. 年齢や続柄等に関して各施設の倫理委員会が認定したドナー条件を満たす。
5. 臓器提供に関して強要、自発的意思に基づかない提供、あるいは金品授受等の利益供与の疑いがない。
6. 手術後の長期の経過観察に応じることが可能であり、かつそれを了承している。

V. 生体肝ドナーに説明すべき事項

 現時点では世界的に生体肝ドナーの短期あるいは長期予後に関する調査報告が充分でないため、生体肝提供(ドナー)手術の危険性を正確に予測することは困難である。同手術のインフォームドコンセントの取得に際しては、以下の生体肝提供(ドナー)手術の危険性を説明事項に含めることを要望する。

1. 全身麻酔下の外科手術に共通する手術中あるいは手術後の危険性、即ち出血、感染、麻酔合併症、死亡1)など
2. 一般的な腹部手術後に起こりうる合併症、即ち消化管機能障害、腸閉塞、消化性潰瘍、腹壁瘢痕ヘルニアなど
3. 肝切除量が多い場合、残肝容量不足から術後肝不全になる可能性
4. 早期あるいは晩期の胆道系・血管系の合併症
5. 成分輸血や血液製剤の投与に付随する危険性
6. 一時的あるいは永続的な身体的または心理的な損失や有害事象
7. 晩期の未知の合併症

 1)欧米での生体肝ドナーの手術による死亡率は現時点で調べうる範囲で0.3-0.9%と考えられる。

VI. 生体肝提供(ドナー)手術の承諾

 生体肝提供(ドナー)手術のインフォームドコンセントの取得に際しては、前述した肝提供(ドナー)手術の危険性に関して充分な説明を行った後に、書面により承諾を得る必要がある。

 なお生体肝ドナーの肝提供の自己決定には移植手術の成功率に関する情報は重要な意味を持つ。個々のレシピエントの手術成功率を正確に予測することは容易でないが、術前データ、自施設の実績、あるいは本研究会の肝移植症例登録の全国集計結果などを説明した上で、可能な限り予後予測に努める必要がある。

 ドミノ肝移植の一次レシピエントは生体肝移植のドナーに分類されるが、その自己肝の提供に際しては、同様の手順で承諾を得ることとする。

VII. 生体肝移植症例の登録

 生体肝移植のレシピエントはもとよりドナーの長期予後に関する情報は重要である。日本肝移植研究会は生体肝移植例全例の全国登録を更に充実させ、特にそのドナーに関する集計結果を公表するとともに、本指針を定期的に見直すこととする。

VIII. 要約

 生体肝移植は有効な治療手段であり、本邦では生体肝ドナーの安全性は高い。しかしながら世界的にはドナーの合併症あるいはドナー死亡例に関するデータの蓄積とその情報公開は必ずしも充分とはいえない。生体臓器移植においてはドナーの健康と安全性が最重要であるため、日本肝移植研究会はその参加施設が生体肝移植を行うに当たり、生体肝ドナーに関する本指針の遵守を要望する。また生体肝移植例の全国登録を行い、生体肝ドナーの合併症あるいは死亡に関するデータを集積し、本指針を定期的に見直すこととする。

なお本指針はわが国における生体肝移植の円滑な普及を目的としてまとめられた。

日本肝移植研究会
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大阪大学 大学院医学系研究科 消化器外科学
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